人生を理解されること。
誰かの記憶に残っていると感じられること。
私たちは、ITとAIを活用して、
高齢者一人ひとりの「心の尊厳」を支える
新しい取り組みを始めようとしています。
高齢化社会について語られるとき、
医療費や介護人材の不足、制度やコストといった
「現役世代の目線での問題点」のみが注目されがちです。
それらが重要であることは言うまでもありません。
しかし私たちは、もう一つの社会課題として、
高齢者一人ひとりの人生の背景や内面が、十分に理解されないまま日常が進んでいることに 目を向けています。
どのような人生を歩み、
何を大切にし、
何を乗り越えてきたのか。
そうした背景が共有されないままでは、
高齢者が感じる孤独や不安、
そして尊厳の揺らぎにつながってしまうのではないでしょうか。
老いとは、単に身体が衰えていくことではありません。
長い人生を歩み抜いてきた記憶や経験を胸に抱きながら、
これからの日々を生きていくことでもあります。
多くの高齢者は、必ずしも評価されたいわけでも点数をつけてもらいたいわけでもありません。
それよりも、
という想いを、心のどこかに抱えています。
「自分の人生は、誰かの心に残っているのだろうか」
「自分がしてきたことを、誰かは理解してくれているのだろうか」
そうした問いを言葉にすることなく、
静かに暮らしている方は少なくありません。
この「忘れられる不安」は、
身体的な衰え以上に、深い心理的苦痛を伴うものだと、
私たちは考えています。
誰かに理解してもらうためには、
その人自身が「語る」必要があります。
どれほど身近な存在であっても、
黙っているだけで、その人の人生や価値観を
理解することはできません。
だからこそ、安心して話せる雰囲気や、
思い出すための「呼び水」が必要だと、私たちは考えています。
そして「語る」という行為は、
単なる情報の伝達ではありません。
これまでの出来事を振り返り、
自分の人生を整理し、
意味づけし直す行為でもあります。
語ることで初めて、
人生は「出来事の連なり」から
「意味を持った物語」へと変わっていきます。
このように、人生を語り、振り返ることには大きな意味があります。
海外では、人生を振り返る行為を「ライフレビュー」と呼び、心理ケアや福祉の分野で一定の効果が認められています。
人生を語ることは、単なる思い出話ではありません。
それは「自分は生きてきてよかった」と実感するための、大切な行為でもあります。
一方で、すべての人が自発的にライフレビューを行えるわけではありません。
こうした理由から、多くの方が「振り返りたくても、できない」状態に置かれています。
そこで私たちは、ITとAIを活用することで、ライフレビューを支援できるのではないかと考えました。
人生の経験や大切にしてきた価値観、乗り越えてきた困難、家族への想い、仕事に対する誇り。
そうした断片的なエピソードを集め、AIが丁寧に補正しながら、肯定的な言葉で整理していきます。
ただし、私たちはこれを「一人語り」で終わらせるつもりはありません。
人生は、誰かに聞いてもらい、理解されて初めて、意味を持つと考えているからです。
老後の趣味として、「自分史」を作成される方もいらっしゃいます。
それ自体を否定するつもりは、もちろんありません。
しかし、ここで一つの問いがあります。
本としてまとめることや、文章として残すことは可能です。
しかし一般の人が、他人の人生の記録を手に取る機会は、決して多くありません。
私たちは、見知らぬ誰かに知られることよりも、
日々を共に過ごす、身近な他者に理解されることのほうが、
はるかに重要だと考えています。
人生の物語は、
どこか遠くの誰かに知られるためではなく、
日々を共に過ごす人に理解されてこそ、意味を持ちます。
老人ホームにおいて、その「他者」となるのは、
入居者のそばで日常を共にする、スタッフの皆さまです。
身近な人に理解されているという安心感は、
「生きてきてよかった」という実感に加えて、
「自分を認識してくれている人と過ごしている」
という、かけがえのない価値を生み出します。
この取り組みは、入居者のためだけのものではありません。
スタッフの皆さまにとっても、価値をもたらすと考えています。
結果として、
につながる、双方にとっての win-win の関係が築けるのではないでしょうか。
このような取り組みをご説明すると、
「スタッフの仕事が増えるのではないか」
と感じられる方もいらっしゃるかと思います。
私たちも、その懸念はもっともだと考えています。
現場はすでに多忙であり、
新しい取り組みが負担になるべきではありません。
そのため本取り組みでは、
新しい業務を増やすことよりも、
すでに行われている会話や関わりを、
無理のない形で活かすことを重視しています。
日常の声かけや会話の中で生まれている内容を、
必要に応じて簡単に記録する。
その負担を、できる限り軽くするために
ITとAIを裏方として活用します。
また、すべてをスタッフの皆さまが担う必要はありません。
入居者の中には、
話を聞くことが得意な方や、
教員などの経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
「誰かの役に立っている」という実感は、
高齢者にとって大きな価値です。
そうした役割を自然に生み出すことも、
この取り組みの一つの目的です。
私たちの考えや仮説は、まだ現場の実務を十分に理解しきれていない部分があるかもしれません。
高齢者の問題に真剣に向き合うほど、外部の想像だけで形を決めることには限界があると感じています。
そのため私たちは、最初にPOC(実証実験)を行い、
実際の現場の中で
を、皆さまと一緒に確かめたいと考えています。
なお、POCの目的は「完成品の導入」ではありません。
POCを通じて、私たちの取り組みが現場にとって意味のあるものになるよう、
改善点やアイデアをいただきながら、形を磨き上げていくことを重視しています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
私たちは、この取り組みを
「完成したサービスを提供するもの」ではなく、
現場の皆さまと一緒につくっていくものだと考えています。
そのため、
まずは短い時間でも構いませんので、
現場で感じていらっしゃることや、
率直なお考えをお聞かせいただけないでしょうか。
合わないと感じられた場合には、
その時点でお断りいただいても、まったく問題ありません。
高齢者の尊厳を守るために、
何が本当に大切なのか。
その答えを、ぜひ現場の声から学ばせてください。
※ 本取り組みは現在、検証(POC)段階にあり、
現場の皆さまの声を伺いながら形づくっていく予定です。